実質GDPがマイナス1.8%に落ち込む理由と景気の読み方
最近のニュースで「7-9月期は前期比年率で実質GDPがマイナス1.8%」という見出しを目にした方も多いはずです。
しかし、実質GDPとは何か、その減少がどんな意味を持つのかを理解するのは簡単ではありません。
本記事では、一般の方にも分かるように仕組みを噛み砕き、併せて「中小企業が直面している本当の負担」まで踏み込んで解説します。
特に近年は、賃上げが進んでいるように見える一方で、
人件費は消費税計算において控除(仕入税額控除)の対象にならないため、企業は負担増
という実務的に極めて重要な問題が起きています。
このように、表面的な経済ニュースだけでは分からない「現場の景気」を読み解きながら、
これから日本経済がどこへ向かうかを整理していきます。
1.実質GDPとは?まずは基本を押さえる
GDPには「名目GDP」と「実質GDP」があります。違いは次のとおりです。
- 名目GDP:物価変動を含む“値段ベース”の経済規模
- 実質GDP:物価変動を除いた“生産量ベース”の経済規模
物価が上がるだけで、名目GDPは上がって見えることがあります。
しかし、実際の景気を把握するには“物価の影響を取り除いた”実質GDPが重要です。
2.実質GDPが「-1.8%」とはどういうことか
実質GDPが1.8%減少したということは、前期よりも日本の生産量が大きく落ち込んだ、という意味です。
これは景気後退に向かうときに見られる典型的な動きです。
3.マイナス成長の主因はこの4つ
① 個人消費の減少
物価高で実質購買力が落ち、消費が弱っています。
賃金が上がっても、税・社会保険料・物価の上昇が上回るケースも多く、
可処分所得が増えにくい環境が続いています。
② 企業の設備投資の減速
コスト高・不確実性によって企業が投資を控えると、生産も縮小します。
③ 輸出の伸び悩み・輸入増による純輸出悪化
海外景気の停滞や為替の影響で、輸出入のバランスが悪化しています。
④ 在庫調整
製造業で在庫圧縮が起きると、生産量が落ち込みGDPも下がります。
4.名目が上がるのに実質が下がる「見かけ倒し」の理由
名目GDPが上がっても、それが単に物価上昇の結果であれば、経済の中身は良くなっていません。
“量が減り値段だけ上がる”という歪な構造は、景気が弱いときにしばしば起こります。
実力(生産量)は落ちている可能性が高い。
5.賃金上昇が企業を追い詰める「消費税の仕組み」を正確に理解する
「賃金が物価を上回った」だけでは本質が見えない理由
最近の報道では「賃上げ率が物価上昇率を上回った」というポジティブな表現が多く見られます。
しかし、企業経営の現場では、賃金上昇は次の理由で重い負担となっています。
最大の理由:人件費は“消費税の仕入控除”ができない
消費税は以下の式で計算されます。
納付消費税 = 売上にかかる消費税 - 仕入・経費にかかる消費税
しかし、次が重要です:
つまり、
- 売上を上げるために人を増やす
- 残業代や基本給を引き上げる
といった「企業努力」は、消費税計算上まったく評価されず、
売上に対する消費税だけが増え、控除は増えないため、納税額は重くなるという構造があります。
この仕組みがもたらす現実
- 賃上げしても消費税は軽くならない
- むしろ「売上が上がるほど消費税負担が比例して増える」
- インフレで材料費は上がるが、人件費は控除できないため負担は二重
- 結果、利益は圧迫され、投資が減り、景気が冷え込む
政府が賃上げを促しても、税制の仕組みがその努力を吸収できていないため、
現場の中小零細企業は「儲からないのに税だけ増える」という非常に苦しい状況に置かれています。
6.景気後退局面で中小企業に起こること
① 売上横ばいでも利益は減りやすい
物価高・人件費増・消費税負担増が同時に押し寄せています。
② 資金繰りが悪化しやすい
消費税は預り金と言われますが、実際には「利益がなくても払う税」なので、
資金繰りの重しになりやすい税目です。
③ 銀行も審査を慎重化
景気悪化局面では、将来返済可能性をシビアに見ます。
在庫、粗利、固定費構造を丁寧に説明できる企業だけが評価されます。
7.今後の日本経済のポイント(企業現場の本音を踏まえて)
①「賃金>物価」だけでは企業の負担はむしろ重い
賃上げは従業員にとってはプラスですが、企業側は消費税の仕組みによって負担増になります。
特に人件費比率の高いサービス業は影響が大きいです。
② 賃上げが続くかどうかは「企業の利益率次第」
利益が出なければ賃上げは維持できません。
消費税の構造が変わらない限り、中長期的に賃上げが鈍る可能性は十分あります。
③ 設備投資の再開が景気回復のカギ
企業が「将来の利益」を見込めるようになると、投資が動き始めます。
ここが動かない限り、景気は横ばい〜後退が続きます。
8.まとめ:数字に見えない“企業の苦しさ”を理解する
実質GDPがマイナス1.8%という数字の裏には、表面だけでは見えない企業の実情があります。
- 賃金上昇は良いニュースに見えるが、企業は消費税負担で苦しくなる
- 人件費は消費税控除できないため、賃上げ=企業の税負担増につながる
- 物価高・コスト高・税負担の三重苦で利益率が下がっている
- 景気後退の局面では投資・雇用が厳しくなりやすい
数字だけでは分からない“現場の景気”を正しく理解することが、これからの日本経済を読んでいくうえで非常に重要です。