組織の意識のベクトルとは、社員一人ひとりの注意・関心・エネルギーが向いている“方向”のこと。
言い換えるなら、目標整合性(Goal Alignment)の度合いであり、その土台が組織文化と価値観の共有です。
組織文化
価値観の共有
目標整合性
心理的安全性
弱い組織は「能力不足」ではなく「方向の不一致」で弱くなる
組織は、優秀な個人の集合だけでは強くなりません。強さを決めるのは、個々の力が同じ方向に束ねられているかです。
方向が揃っていれば、意思決定は速く、連携は滑らかになり、学習が進みます。逆に方向がバラバラだと、会議は増え、手戻りが増え、現場は疲弊します。
よくある現象は次の通りです。
- 会議は多いのに、決定が少ない(決める責任が曖昧)
- 部署ごとに正解が違う(部分最適がぶつかる)
- 問題が起きると犯人探し(原因より責任に意識が向く)
- 改善提案が減る(言っても変わらない空気が広がる)
提案が減るのは「心理的安全性の低下」と「学習性無力感」がサイン
提案が減る現象は、能力不足ではなく環境要因で起きます。典型は心理的安全性の低下です。発言すると否定される、責任を負わされる、評価が下がる。こうした経験が積み重なると、現場は学習性無力感に陥り、「言っても変わらない」という静かな諦めが組織に定着します。
現場の“沈黙”は、コストゼロで始まり、のちに高額な損失になります。
改善提案が止まると、問題の早期発見が遅れ、品質・納期・顧客満足がじわじわ落ちます。
ベクトルがズレる原因は、だいたいこの3つ
1)価値観が共有されていない(組織文化が言語化されていない)
理念や方針があっても、現場で使える言葉になっていないと、各自が勝手に解釈します。
その結果、「自分は正しい」が複数発生し、組織のエネルギーが分散します。価値観の共有は精神論ではなく、判断基準の統一です。
2)評価が整合していない(期待理論と公平理論が崩れている)
「頑張れば報われる」と人が思えるかどうかは、経営管理論では期待理論(Vroom)で説明できます。
ざっくり言えば、①努力すれば成果が出る(期待)②成果が評価につながる(道具性)③評価が本人にとって魅力的(誘意性)という連鎖が切れると、人は頑張らなくなります。
さらに厄介なのが公平理論(Adams)です。評価や待遇の納得感が崩れると、努力の量は静かに調整されます。
つまり、ベクトルを揃えるための掛け声より先に、評価の整合性が必要になります。
3)組織構造と情報の流れが合っていない(職能別・事業部制・マトリックスの落とし穴)
ベクトルのズレは、組織構造との相性でも起きます。代表例を整理します。
- 職能別組織:専門性は高まりやすい一方、部門最適が強まりやすく、他部門への関心が薄れがち
- 事業部制組織:顧客や製品単位でスピードは出る一方、機能横断の重複や、全社共通ルールが弱くなることがある
- マトリックス組織:複数軸で最適化できる一方、指揮命令が複線化し、意思決定が遅れたり責任が曖昧になりやすい
構造が悪いのではなく、構造に合う意思決定ルールと情報共有の型がないと、ズレが増幅します。
3分でできる「目標整合性」セルフ診断
3つ以上当てはまると、ベクトルのズレが進行している可能性があります。
- 方針が出ても、現場の行動が変わらない
- 会議の結論が出ず、「持ち帰り」が多い
- 部門間で責任の押し付け合いが起きる
- 同じ問題が形を変えて繰り返される
- 数字の報告はあるが、打ち手の議論が薄い
- 提案が減り、改善の話題が出なくなった
- 評価に納得感がなく、陰で不満が回る
処方箋:ベクトルを揃えるより「目標整合性を高める」5ステップ
ここからは実務の手順です。ポイントは、精神論ではなく仕組みで方向性の統一を作ること。
やることはシンプルですが、順番が大事です。
ステップ1:価値観を「判断基準」として短文化する
理念を長文で掲げても、現場では使われません。まずは一文で「判断の優先順位」を言い切ります。
- 例:「迷ったら、顧客価値が上がる方を選ぶ」
- 例:「数字より先に、信頼を守る行動をする」
これが組織文化の芯になり、価値観の共有が進みます。
ステップ2:上位目標を3つに絞って、言葉を揃える
「全部大事」は、現場にとっては「結局どれ?」になります。
今期の上位目標を3つに絞り、どの会議でも同じ言葉で語れる状態にします。
- 例:①粗利改善 ②継続率改善 ③紹介獲得
ステップ3:意思決定ルールを定義する(誰が・いつ・何を決めるか)
決め方が曖昧だと、会議は永遠に“相談の場”になります。おすすめは3階層に分けることです。
- 現場で即決してよいこと:顧客対応の小さな裁量など
- 責任者が決めること:条件変更、優先順位変更など
- 経営が決めること:投資、採用、撤退など
組織構造が職能別でも事業部制でもマトリックスでも、このルールがあるとズレが補正されます。
ステップ4:情報共有を「型」にする(不信は情報不足から増える)
情報が偏ると、人は想像で補います。想像はだいたい不安方向に膨らむ。
だから、共有すべき情報は型で固定します。
- 週次:数字(結果)と打ち手(次の一手)
- 月次:上位目標3つの進捗と課題
- 随時:意思決定事項と背景(なぜそうしたか)
ステップ5:評価を整合させる(期待理論と公平理論の“穴”を塞ぐ)
ベクトルを揃える最大のレバーは評価です。ここがズレていると、どれだけ価値観を語っても現場は動きません。
- 期待理論:努力→成果→評価→報酬(納得できる見返り)の連鎖を切らない
- 公平理論:評価基準を透明にし、説明責任を果たす(不公平感の芽を摘む)
そして、心理的安全性を守るために、改善提案を「否定されない仕組み」にします。
例:提案はまず論点化して議題に載せる、提案者を責めない、却下理由を説明して学びに変える。これだけで沈黙がほどけます。
弊社の実例:通販事業とWEB制作事業を「同じデザイナー」で回して大変だった話
弊社でも実際にありました。通販事業とWEB制作事業を並行して進める中で、デザイナーが同じだった時期は、想像以上に現場が大変でした。
一見すると人員を共有できて効率的に見えますが、実務では求められる“品質の定義(レベル)”が二つ存在するため、スタッフが混乱しやすい構造だったからです。
混乱の正体:同じ「デザイン」でも評価基準が違う
- 通販:購入率・クリック率・訴求の強さなど、売上に直結する成果が重視されやすい
- WEB制作:ブランド表現・体験設計・要件順守など、クライアント期待に沿う完成度が重視されやすい
つまり、同じスタッフが「Aではスピード重視」「Bでは品質重視」と、二つの正解を行ったり来たりする状態になります。
兼務(マトリックス化)によって生じる役割葛藤や目標不整合の典型です。
なぜスタッフが混乱するのか:目標整合性が崩れるポイント
現場の混乱は、個人の能力不足ではなく、目標整合性(ベクトル)を揃えるための設計が不足していることから起きます。特に次の3点が揃っていないと、混乱は加速します。
- 品質の定義が二重:「どのレベルが正しいか」が案件によって切り替わり、判断コストが増える
- 優先順位が曖昧:通販の販促と制作案件の納期がぶつかったとき、誰が何基準で決めるか不明
- 評価が複線化:期待理論(努力→成果→評価)と公平理論(納得感)が崩れやすくなる
放置すると起きること:提案が減り、心理的安全性が下がる
二つのレベルが混在すると、指摘や修正が増えます。「どっちの正解?」が増えると、現場は安全策を取りがちになり、提案が減っていきます。
ここで怖いのは、提案が減ること自体よりも、心理的安全性の低下と学習性無力感(言っても変わらない)が組織に染み込むことです。
結果として、改善の燃料が減り、組織の意識のベクトルはますます揃いにくくなります。
処方箋:同じスタッフで回すなら「品質の定義」と「切替ルール」を先に決める
兼務が悪いわけではありません。問題は、求める水準が二つあるのに、切替のルールがないことです。
弊社の学びとしては、最低限ここだけは先に決めておくと、混乱が大きく減ります。
混乱を減らす3点セット(おすすめ)
- 品質の定義:通販は「CVに効く表現」/制作は「要件とブランドに合う完成度」など、基準を言語化する
- 優先順位ルール:衝突時は「顧客影響」「納期」「粗利」など、判断基準を固定する
- 評価の整合性:期待理論の連鎖(努力→成果→評価)を切らず、公平理論の観点で納得感を担保する
組織のベクトルを揃える(目標整合性を高める)とは、抽象的なスローガンではなく、現場の判断基準を揃え、切替を設計することです。
同じ人が複数事業を担うほど、この「設計の有無」が組織の強さを分けます。
弊社の過去の失敗をさらに因数分解:2事業を同じスタッフで回すと、なぜ急に苦しくなるのか
部門が2事業以上あり、しかもスタッフが同じ。こうした体制は、一見すると「少人数で効率的」に見えます。ところが現場では、急にしんどくなりやすい。
これは組織構造上の“兼務(マトリックス化)”によって、負荷と摩擦が増幅する状態です。
起きやすい問題(現場での“あるある”)
- 優先順位が日替わり:事業Aの締切、事業Bの突発対応。どちらも「最優先」で、現場が判断疲れする
- 役割葛藤:Aの成果を求められながら、Bのルールにも従う。評価軸が複線化してモヤモヤが増える
- 仕事の切替コスト:頭のモード切替が増え、同じ8時間でも成果が落ちる(見えにくい生産性低下)
- 会議が増える:関係者が増え、決めるまでの経路が長くなる
なぜ提案が減るのか:心理的安全性の低下と学習性無力感
兼務体制で負荷が上がると、現場は「新しいこと」より「燃えている火消し」を優先せざるを得ません。
さらに、事業ごとに言うことが違うと、提案しても通りにくくなります。否定や棚上げが続くと、心理的安全性が下がり、やがて学習性無力感(言っても変わらない)が広がります。
結果として、改善提案や前向きな議論が減り、組織は静かに弱くなります。
処方箋:同じスタッフで2事業を回すなら「目標整合性」を先に設計する
兼務そのものが悪いわけではありません。問題は、優先順位・意思決定・評価が“二重化”していることです。
同じスタッフで複数事業を回す場合、最低限ここだけは先に決めると、ベクトル(目標整合性)が揃い始めます。
兼務体制で先に決める3点セット
- 優先順位のルール:「AとBが衝突したら、何を基準に決めるか(顧客影響?粗利?納期?)」
- 意思決定者:衝突時に誰が最終判断するか(現場が抱え込まない仕組み)
- 評価の整合性:期待理論(努力→成果→評価)と公平理論(納得感)を壊さない評価軸にする
この3点が曖昧なままだと、現場は「頑張っても報われない」感覚になりやすく、努力の量が調整されます。
逆に、ルールが決まれば、同じスタッフでも切替がしやすくなり、提案や改善が戻りやすくなります。
まとめ:ベクトルは放っておくとズレる。だから「補正の仕組み」を持つ
組織は放っておくと必ずズレます。人が入れ替わり、環境が変わり、前提が変わるからです。
だから大事なのは、一度揃えたら終わりではなく、定期的に目標整合性を補正する仕組みを持つこと。
「なんか噛み合わない」「頑張っているのに前に進まない」と感じるなら、能力不足ではなく、意識のベクトルのズレかもしれません。えらそうにブログを書いている私も過去は組織構築を理解しているつもりで経営をし、大失敗を経験しました
まずは価値観、評価、意思決定の順に点検してみてください。
組織のズレの診断と、補正の実装をご一緒します
Plowでは、組織文化・評価・意思決定・情報共有を「現場が動く型」に落とし込み、目標整合性を高めます。
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