共同経営・役員複数意思統一組織論
「経営者だけの組織なのに決まらない」「会議では合意したのに、現場に落ちると解釈が割れる」。
共同経営や役員複数の体制ほど、意思統一の難しさが表面化しやすいです。
ただし原因は“仲が悪い”ではなく、正しさが複数ある状態を放置している構造にあるケースが多い。
本記事では、ズレが起きる理由を経営管理論の視点も交えつつ、決まる組織に整える設計図を実務的に整理します。
経営者だけの組織で意思統一が難しいのは「能力不足」ではなく構造の問題
現場の組織なら「上司が決める」で終わる話でも、経営者同士はそうはいきません。
視野が広く、責任も重く、経験もある。だからこそ議論は高度になります。
その一方で、決め方のルールが曖昧だと、議論の質が高いほど結論が割れ、実行段階で摩擦が出ます。
結論(先に言い切り)
経営者だけの組織は、仲が悪いから揉めるのではありません。
役割が近すぎて「最終決定」が曖昧になり、正しさが並列に残るからズレます。
意思統一が崩れる「よくある5つの構造」
1. 目的が同じでも「評価軸(KPI)」が違う
売上拡大、利益確保、資金繰り安定、品質向上、採用強化。どれも正しい。
しかし優先順位が決まっていないと、毎回の意思決定で争点が変わり、結論が揺れます。
売上・シェア・成長率を最優先。機会損失が最大の敵。
キャッシュ・回収・固定費を最優先。資金ショートが最大の敵。
クレーム・再現性・ブランドを最優先。毀損や事故が最大の敵。
2. 「社長が複数いる状態」になりやすい(共同経営の罠)
役員が複数いる体制は強い反面、意思決定の最後の一押しが出にくい。
遠慮や政治が入り、結論が「まあそれで…」になりがちです。
その結果、実行段階で揉め直し、現場が“空気読み”で動く状態になります。
3. 論点が増えすぎて「何を決める会議か」が消える
経営者は視野が広く、論点が分岐しやすい。
会議が“論点の万華鏡”になると、結論ではなく「良い議論をした感」だけが残り、決まらない会議が常態化します。
4. 公平理論(Adams)と期待理論(Vroom)が静かに効く
共同経営で危険なのは、論理の衝突より「感情の会計」です。
- 公平理論(Adams):自分はこれだけ背負っているのに、相手は…という不満が蓄積
- 期待理論(Vroom):この意思決定にコミットしても報われない、と感じると関与が下がる
この状態になると、正論を積み上げても前に進みにくくなります。
「何が正しいか」ではなく「誰が得するか」に意識が寄ると、意思統一は一気に難しくなります。
5. 心理的安全性の低下と擬集性(groupthink)で、異論が消える
経営者同士の議論が強くなりすぎると、反対意見を出すこと自体がリスクに見えます。
すると異論が消え、「表面上は全員賛成」に見える状態になりがちです。
これは擬集性(groupthink)とも呼ばれ、合意が早いようでいて、実は
代替案の検討不足・リスクの過小評価・都合の悪い情報の黙殺を招きます。
さらに「言っても変わらない」が積み上がると、提案が減り、学習性無力感に近い状態へ。
合意のスピードが上がるほど、意思決定の質が落ち、後から“想定外”が増えていきます。
ズレを減らす3つの設計図(意思統一は仕組み化できる)
設計図1:目的を「言葉」ではなく「優先順位」で固定する
「成長します」「利益を出します」は、ふわっとして合意しやすい一方で、実行の場で割れます。
そこでおすすめは、経営判断の優先順位を決めることです。
| 例:今期の優先順位 |
1位:キャッシュ(資金繰り) 2位:粗利(利益率) 3位:売上(成長) ※会社の局面により並びは変わります。重要なのは「順位を明文化」することです。 |
|---|---|
| 効果 | 迷った時に議論が「価値観」ではなく「基準」に戻り、決定が早くなります。 |
設計図2:役割分担は「担当業務」ではなく「最終決定領域」で切る
「営業はA」「採用はB」のような担当分けは、実務ではすぐに越境します。
越境するたびに揉めるので、共同経営では最終決定領域(Decision Rights)で区切るのが有効です。
| 最終決定領域の例 |
価格と値引きルールの最終決定:A 投資(設備・広告・新規事業)の最終決定:B 採用・人件費テーブルの最終決定:C |
|---|---|
| ポイント |
「相談はするが、最後は誰が決めるか」を固定します。 合議にする領域と、単独決裁にする領域を分けると摩擦が減ります。 |
設計図3:会議を「決める会議」に変える(議題テンプレ)
経営会議が長いのに、なぜか決まらない。原因は、会議が「考える場」になっていることです。
共同経営では、会議を決めるための型に寄せるだけで景色が変わります。
決める会議のテンプレ(これだけでOK)
- 今日決めること(Yes/Noを明確化)
- 判断基準(優先順位に戻す)
- 選択肢(最大3つまで)
- 決定・期限・担当(宿題化しない)
補足:議論が逸れたら「それは別議題」にして分離します。論点の交通整理が最強の時短です。
共同経営で特に効く「ズレの早期発見」チェック
次の項目が増えてきたら、意思統一が崩れ始めているサインです。
- 会議で合意したのに、実行段階で「聞いてない」「解釈が違う」が出る
- 決定が遅れ、先送りが増える(実行の空白が長い)
- 提案が減る、反対意見が出ない(擬集性の兆候)
- 役員同士の会話が「論点」より「人」に寄る
- 現場が“空気読み”で動き、確認と根回しが増える
まとめ:ベクトルを揃えるのは精神論ではなく「設計」
経営者だけの組織で意思統一が難しいのは、優秀だからこそ「正しさが複数ある」ためです。
共同経営を強みに変えるには、次の3点を仕組み化するのが近道です。
- 優先順位:目的を順位で固定する
- 決裁領域:誰が最後に決めるかを明文化する
- 会議設計:決める型で運用する
共同経営の意思統一を「仕組み」で整えたい方へ
Plowでは、経営改善・組織設計の実務視点で、役員間の意思決定プロセスの整理や、
優先順位・決裁領域・会議体の設計まで伴走します。
「揉めない組織」ではなく「決まる組織」に変えるところから一緒に進めます。