「他行に意見を聞くのは失礼?」という相談は驚くほど多い
中小企業の社長からの相談で、とても多いテーマがあります。
「今の銀行以外に聞いたら怒られませんか?」
「他行に相談したら、裏切りと思われませんか?」
「複数の銀行に話すのはルール違反じゃない?」
実務から言うと、これは完全に誤解です。
結論:複数の銀行に相談するのは「あり」どころか、むしろ必須。
銀行はそれぞれ文化も判断基準も違う“別会社”です。
担当者の力量も違う。本部の方針もタイミングも違う。
だから同じ資料を見ても、
- A銀行 → 融資不可
- B銀行 → 条件付きでOK
- C銀行 → 全額OK
ということが普通に起こります。
経営者が「一行だけに頼る」のは、仕事を一人に丸投げするのと同じでリスクが高い行動です。
この記事では、なぜ複数行に相談すべきなのか、銀行側の本音、失礼にならない進め方まで、実務目線でまとめます。
なぜ複数の銀行に相談すべきなのか
理由① 銀行ごとに「融資姿勢」「評価軸」がまったく違うから
銀行は表向き同じように見えても、中身は完全に別企業です。
重視するポイントはこんなに違います。
- 黒字化までのストーリーを重視する銀行
- 担保・保証を中心に判断する銀行
- 成長性や市場性を評価する銀行
- 社長の人柄や現場の雰囲気を重視する銀行
- 今はリスクを取りたい「攻めの時期」にある銀行
同じ決算書・同じ経営改善計画でも、「読み方」が違うため、評価が変わるのは当然です。
実際、支援先の事例でも、
- A銀行は「絶対に無理です」と言った案件を
- B銀行は「ぜひ支援したい」と言ってくれた
というケースは珍しくありません。
一行だけに相談するのは、
「たまたま否定的な銀行・否定的な担当者に当たって、未来を失う」 リスクがあります。
理由② メインバンクが“攻めていない時期”がある
銀行の融資姿勢は、銀行内部の事情やタイミングによって変わります。
- 決算期で融資に慎重になっている
- 不良債権が増えてリスクを取りたくない時期
- 監査指導で運用が厳しくなっている
- 担当者が経験不足
こうしたタイミングに当たると、「本来は通るレベルの案件なのに、なかなか通らない」という状況が生まれます。
このとき、複数行に相談している企業ほど、
- 資金調達のタイミングを逃さない
- 条件の良い銀行と早めに出会える
- 支援に前向きな担当者とつながりやすい
というメリットを得やすくなります。
理由③ 銀行は“他行の動き”を非常に意識している
銀行は、他の銀行がどう動いているかを非常に気にしています。
経営者が他行にも相談していると知ると、銀行の本音はこうです。
- 「この案件、他行に取られたくない」
- 「きちんと支援すればメインバンクになれるかもしれない」
この心理が働くことで、
- 融資の検討スピードが上がる
- 条件交渉がしやすくなる
- 提案内容が前向きになる
といったプラスの効果が生まれます。
逆に「御行だけにお願いしています」と伝えると、
「急がなくても離れないだろう」という安心感を与えてしまい、
対応がゆっくり・保守的になることすらあります。
理由④ 経営改善計画は「誰に見せるか」で結果が変わる
経営改善計画や再生支援の現場にいると、強く感じることがあります。
同じ計画書でも、担当者によって評価がまったく違う。
違いが出るポイントは、例えばこんなところです。
- キャッシュフローの理解度
- 改善余地のある費目の見つけ方
- 業界特有の事情への理解
- 本部への説明のうまさ(プレゼン力)
つまり、
計画書の「中身」以上に、「誰に見せるか」で結果が変わる。
だからこそ、複数行に相談し、
「きちんと話を聞いてくれる銀行」「経営改善に理解のある担当者」と出会うことが重要です。
銀行は「他行に相談される」と怒るのか?
実務的な答え:ほぼ怒られない。むしろ普通
実務の現場で、他行に相談したことが理由で本気で怒られたケースは、ほとんど見ません。
むしろ銀行の本音としては、
- 「他行に負けたくない」
- 「この案件をきっかけにメイン化できないか」
- 「前向きに支援すれば長い付き合いになるかもしれない」
と考えています。
銀行側も、「企業は銀行を選ぶ権利がある」ことは理解しています。
一行専属で縛ることはできません。
本当に嫌がられるパターンは別にある
他行に相談したこと自体ではなく、銀行が嫌がるのは例えば次のようなケースです。
- 情報を隠す(リスケ・税金滞納・他行借入など)
- 不利な情報を後出しで伝える
- 「他行はもっといい条件」と根拠なく揺さぶる
要するに、
複数行に相談すること自体は問題ではなく、「不誠実な情報の出し方」が信頼を壊す。
ここだけ押さえておけば、複数行相談はむしろプラスに働きます。
失礼にならない「複数行相談」の進め方
① 正直に伝える:「他行にも相談しています」
一番シンプルでトラブルにならない方法は、正直に伝えることです。
例えば、こんな言い方で十分です。
「今回の資金調達については、御行を含めて複数行さんにご相談しています。
それぞれのご意見やお考えを伺ったうえで、今後のお付き合いも含めて考えたいと思っています。」
これだけで、銀行は「他行との競争案件だな」と理解します。
② 同じ資料を全ての銀行に提出する
複数行に相談するときは、
- 決算書
- 試算表
- 資金繰り表
- 経営改善計画(売上・利益・キャッシュフローの見通し)
など、基本資料はできるだけ同じものを出しましょう。
資料がバラバラだと、評価の差が「資料の差」なのか「銀行の見方の差」なのか分からなくなります。
同じ資料でどう判断が分かれるか を見ることで、
「どの銀行が本当に自社を理解してくれているか」が見えてきます。
③ 検討のタイミングをそろえる
銀行への相談タイミングが大きくずれていると、
- A銀行だけ先に進んでいる
- B銀行はまだ情報不足で判断できない
という状態になり、比較がしづらくなります。
できれば、
- 同じ月・同じタイミングに相談を開始する
- 同じタイミングで資料を渡す
- 同じようなスケジュール感で面談を進める
このように揃えておくと、各銀行も「他行に遅れないように」と意識して動くようになります。
④ お断りするときは丁寧に、しかしはっきりと
複数行に相談した結果、全ての銀行と取引できるわけではありません。
その際は、
「今回は条件やタイミングの関係で、別の銀行さんと進めることになりました。
ただ、今後も御行とは長いお付き合いをお願いしたいと思っております。」
というように、丁寧に、しかしはっきりと伝えれば十分です。
銀行側も「そういうことはある」と理解しています。
「今の銀行が冷たい」と感じたら、すぐにやるべきこと
もし今、メインバンクに対してこんな感覚があるなら要注意です。
- 相談しても反応が遅い
- 否定的なコメントばかりで代替案がない
- 改善の方向性よりも「ダメな理由」ばかり言われる
- こちらの状況を理解しようとする姿勢が弱い
こうした場合、
その銀行が悪いというより、「相性が悪い」「今は攻めていない時期」なだけかもしれない。
一行に固執する必要はありません。
メインバンクと良好な関係を保ちつつ、
- 第二地銀や信用金庫・信用組合に相談する
- 別のメガバンク・地銀にも話を持っていく
- 認定支援機関など第三者を交えて相談する
といった動きを取ることで、一気に状況が変わることがあります。
まとめ:銀行は“敵”でも“味方”でもなく、経営のパートナー
銀行は、完全な味方でもなく、完全な敵でもありません。
正しく表現するなら、
「お互いの立場を理解しながら付き合う、長期のビジネスパートナー」
だからこそ、
- 一行だけに依存しない
- 複数の銀行から意見を聞く
- 会社に合った銀行・担当者を選ぶ
- 必要に応じてメインバンクを見直す
という姿勢は、経営戦略の一部と考えるべきです。
「違う銀行に意見を聞くのは失礼では?」と遠慮する必要はありません。
会社を守り、従業員と家族の生活を守るために、社長には「銀行を選ぶ権利」と「比較検討する責任」があります。
もし、どのように複数行に相談を広げればよいか迷う場合は、
認定支援機関など第三者を交えたうえで戦略的に進めていくのも一つの方法です。
複数行への相談や資金繰りの整理でお困りの方へ
Plow株式会社は、中小企業の資金繰り改善・経営改善計画づくり・銀行交渉の支援を多数行っています。
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