「去年はよく売れた。だから今年は、もう少し多めに仕入れよう。」
商売をしていれば、ごく自然な判断です。
前年に途中で売り切れて販売機会を逃したのであれば、翌年の仕入数量を増やす。
数字だけを見れば、決して間違った判断ではありません。
物価高、消費者の節約志向、低価格商品の増加、海外製品との価格競争。
わずか1年で市場環境が大きく変わり、前年実績がそのまま翌年の需要予測として使えないケースが増えています。
売れた去年を信じると危ない。経済的発注量では読めない今の景気
在庫管理の代表的な考え方に、経済的発注量(EOQ)があります。
発注コストと在庫保有コストのバランスを見ながら、「どれくらい仕入れるのが最も経済的か」を考える理論です。
非常に合理的な考え方です。
ただ、最近の商売を見ていると、経済的発注量を計算する以前に、もっと大きな問題が出てきているように感じます。
経済的発注量(EOQ)とは?
経済的発注量とは、発注にかかるコストと在庫を保有するコストの合計が最も小さくなる発注数量を求める考え方です。
少量を何度も発注すると、発注回数が増えるため発注コストが大きくなります。
一方で、一度に大量に仕入れれば発注回数は減りますが、今度は在庫を保管する費用や資金負担が大きくなります。
- 発注しすぎない
- 在庫を持ちすぎない
- 発注回数を増やしすぎない
ただし、この考え方には重要な前提があります。
ここが今、大きく揺らいでいるように感じます。
今は「発注量」よりも「需要」が読めない
例えば前年、ある季節商品が6月の段階で売り切れたとします。
経営者なら普通こう考えます。
もっと商品があれば、もっと売れたはず。
今年は在庫を増やそう。」
これは決しておかしな判断ではありません。
むしろ販売機会を逃していたのであれば、翌年の仕入数量を増やすことは合理的です。
ところが翌年になると状況が変わります。
- 競合メーカーが新商品を出す
- 低価格の商品が増える
- 海外製品が大量に市場へ入ってくる
- ネット通販によって価格比較がさらに進む
- 消費者の節約志向が強くなる
前年と同じ商品でも、前年と同じようには売れません。
「去年売れた」という成功体験が危険になる
経営では前年実績を見ることが基本です。
ただ、市場環境が大きく変化しているときには、前年の成功体験が逆に判断を狂わせることがあります。
去年早い時期に売り切れた。
だから今年は在庫を増やした。
しかし、思ったほど売れない。
シーズン後半になって在庫が残り、値下げをする。
さらに売れなければ、もう一段値下げする。
最終的には原価に近い価格でも販売し、とにかく在庫を現金化する。
しかし、利益を見ると当初想定していた商売とはまったく違う。
これが在庫商売の怖いところです。
そして、偉そうに書いている弊社も失敗しました
と、ここまで偉そうに書いておりますが、実は弊社も今年、 電動ファン付ウェア関連商品の仕入数量を大きく読み違えました。
前年は6月の時点で商品が売り切れました。
そこで、
今年はもっと在庫を持っておこう。」
と考え、前年よりかなり多めに商品を仕入れました。
ところが今年は、市場環境が大きく変わりました。
特に電動ファン付ウェアの市場では、低価格帯の商品や海外製の商品が一気に増加。
前年とは比較にならないほど価格競争が激しくなりました。
結果として、シーズン後半には販売価格を大きく下げ、最終的には原価に近い水準で販売しながら在庫を消化することになりました。
ただし「販売数量」と「残った利益」はまったく別の話です。
前年の成功体験をそのまま翌年の需要予測に使う怖さを、弊社自身が身をもって経験しました。
大切なのは「絶対に外さないこと」ではなく、外したと気づいたときにどれだけ早く方向修正できるかなのだと改めて感じました。
在庫は資産。でも現金ではない
会計上、商品在庫は資産です。
しかし実際の経営では、在庫が増えれば、その分だけ現金が商品へ変わっています。
例えば1,000万円の商品を仕入れれば、棚卸資産は1,000万円増えます。
でも、手元資金はその分減ります。
しかも商品が予定通り売れなくても、
- 仕入代金
- 人件費
- 家賃
- 借入金の返済
- 税金
- 社会保険料
は待ってくれません。
こうした会社では、過剰在庫が資金繰りを圧迫しているケースもあります。
大量に仕入れて安く買うことが、本当に得なのか
大量発注によって仕入単価を下げることは、利益確保の有効な方法です。
これは今でも変わりません。
ただし需要の変動が大きい商品では、少し考え方を変える必要があります。
例えば仕入単価が5%高くなっても、在庫数量を半分にできれば資金繰りの負担は大きく減ります。
特に次のような商品は要注意です。
- 季節商品
- 流行商品
- モデルチェンジの多い商品
- 価格競争が激しい商品
- 海外製品の参入が急増している市場
このような商品では、初回発注を抑え、売れ行きを確認しながら追加発注する方が安全な場合があります。
粗利益率だけでは経営の実態は見えない
在庫を持つ会社では、粗利益率だけを見ていても経営の実態は見えてきません。
あわせて確認したいのが次の数字です。
- 在庫回転率
- 在庫回転期間
- 在庫消化率
- 値下げ率
- 仕入から現金化までの日数
高い粗利益率の商品でも、半年間倉庫で眠っていれば資金効率は悪くなります。
逆に粗利益率が多少低くても、短期間で売れて現金が戻ってくる商品であれば、資金繰りという面では優秀です。
経済的発注量が使えないのではなく、前提条件が変わった
ここまで書くと「経済的発注量はもう使えないのか」と思われるかもしれません。
もちろん、そうではありません。
年間を通して需要が安定している商品や、継続的に販売する商品では、経済的発注量の考え方は現在でも非常に有効です。
問題なのは、需要の変動幅が以前より大きくなっていることです。
今後の在庫計画では、最適な発注数量だけでなく、
- 需要が30%落ちたらどうするか
- 競合が大幅な値下げをしたらどうするか
- 低価格商品が大量参入したらどうするか
- 売れ行きが鈍ったらいつ値下げするか
- 最悪どこまで在庫を持てるのか
といったシナリオまで考えておく必要があります。
去年の数字ではなく、今年の市場を見る
前年実績は非常に重要な経営資料です。
ただし前年実績は、あくまで「去年の市場で起きた結果」です。
今年の市場が同じとは限りません。
この考え方が、今の市場では大きな在庫リスクになる場合があります。
経営者が見るべきなのは、過去の数字だけではありません。
- 現在の競合状況
- 市場価格
- 消費者の動き
- 在庫回転
- 自社の資金力
こうした数字を総合して判断する必要があります。
これからの在庫管理で一番大切なこと
「いくらまでなら外しても会社が耐えられるか」
今のように需要が読みにくい環境では、この視点が以前より重要になっているのではないでしょうか。
理論上の最適値だけを見るのではなく、需要予測が外れた場合の損失まで考える。
そして、もし外したのであれば早く動く。
- 値下げする
- 販売チャネルを変える
- 広告を強化する
- 来期の仕入数量を減らす
経営改善とは、失敗をゼロにすることではありません。
それが経営なのだと思います。
Plow株式会社も、現場で商売をしている会社です
Plow株式会社では、経営改善や資金繰りの支援だけを行っているわけではありません。
弊社自身も実際に商品を仕入れ、販売し、WEBで集客し、在庫を持ち、価格を決めながら事業を行っています。
だからこそ、理論上は正しくても、現場では思った通りにいかないことがあると理解しています。
今回のように、弊社自身が仕入数量を読み違えることもあります。
それでも数字を確認し、現場を見て、できるだけ早く次の判断をする。
売上・利益・在庫・資金繰りを一体で考えることを、Plow株式会社では大切にしています。
まとめ:売れた去年より、変わった今年を見る
前年実績を見ることは大切です。
しかし、前年に成功した方法をそのまま繰り返せば、翌年も成功するとは限りません。
市場は変わります。
競合も変わります。
価格も変わります。
そして、お客様のお金の使い方も変わります。
経済的発注量をはじめとした経営理論は、経営判断を助けてくれる大切な道具です。
ただし最後に見るべきなのは計算式だけではなく、 「今、実際に市場で何が起きているのか」 ではないでしょうか。
弊社自身の今年の失敗も、来年の仕入判断にしっかり生かしたいと思います。
「売上はあるのに現金が残らない」「在庫が資金繰りを圧迫している」「事業計画や仕入計画を数字から整理したい」など、経営状況を一緒に整理します。
お問い合わせ:https://pl-ow.com/contact/
※本記事は、弊社自身の事業運営で感じた経験をもとにした一般的な経営情報です。業種・商品特性・仕入条件等によって適切な在庫水準は異なります。