国の中小企業政策は、すべての会社を残す政策から変わってきているのではないか
事業承継、M&A、省力化、生産性向上。最近の中小企業向け施策を見ていると、「会社という箱を残す」ことよりも、「事業・技術・雇用を次へつなぐ」ことへ重心が移っているように感じます。
最近の施策を見ていて感じる違和感
私は日々、中小企業の経営改善や資金繰り、金融機関との調整、事業承継などに関わっています。その中で、ここ数年の中小企業・小規模事業者への経済施策を見ていると、継続して少しずつ空気が変わってきているように感じます。
以前から事業承継支援はありましたが、最近は事業承継、M&A、生産性向上、省力化、デジタル化、成長投資、賃上げといった言葉が、より強く前面に出ています。
2026年版中小企業白書でも、「現状維持は最大のリスク」とし、労働生産性の向上や経営力の強化によって「強い中小企業」へ成長することの重要性が示されています。一方、小規模企業白書では「事業の維持・拡大」も明確に掲げられており、小さな会社を一律に退出させる政策ではありません。
だからこそ、私は「国は小規模企業を潰そうとしているのか」という単純な話ではなく、中小企業政策そのものの目的が少しずつ変わってきているのではないかと考えています。
「会社を残す」から「経営資源を残す」へ
事業承継・M&A補助金では、国自身が「事業承継・M&Aによる経営資源の引継ぎ」を後押しするとしています。
ここで重要なのは、「会社をそのまま残す」という表現ではなく、経営資源を引き継ぐという考え方だと思います。
経営者が高齢になり、親族にも従業員にも後継者がいない。それでも、その会社には顧客がいて、技術があり、従業員がいます。
このような場合、「法人そのものを何が何でも残す」ことよりも、他社への承継やM&Aによって価値を残す方が現実的なこともあります。
小規模企業には、数字だけでは見えない価値がある
ただ、ここで忘れてはいけないことがあります。
小さな会社の価値は、売上高や従業員数、生産性だけでは測れません。
売上数千万円の町工場でも、その会社にしかできない加工を頼っている取引先がいることがあります。従業員数名の会社でも、長年地域の雇用を支えていることがあります。社長個人の信用で何十年も取引が続いている会社もあります。
こうした会社がなくなれば、その影響は一社だけで終わらないことがあります。取引先の調達が止まる。技術が消える。地域からサービスがなくなる。従業員の働く場所がなくなる。
実際、中小企業庁もサプライチェーン維持の観点から、事業承継やM&Aによって連鎖廃業を防ぐ考え方を示しています。
では、M&Aすればいいのか
ここは、私は少し違うと思っています。
事業承継やM&Aは重要な選択肢です。しかし、経営が少し悪くなった会社に対して、すぐに「売却」「廃業」「統合」という話になるのは早すぎます。
現場では、まだ十分立て直せる会社が山ほどあります。危険なのは現状維持の会社です。
- 価格を見直す
- 赤字の商品や取引先を整理する
- 粗利益率を改善する
- 不要な固定費を減らす
- 在庫や売掛金を見直す
- 借入金の返済負担を整理する
- 金融機関と早めに今後の資金繰りを共有する
- 新しい販路をつくる
こうした地味な改善を積み上げるだけで、会社の状態が大きく変わることがあります。ダーウィンの進化論を私は企業を見るときに考えます。
「たたむか、売るか」の前に経営改善がある
資金繰りが完全に詰まってからでは、選択肢は急速に減ります。
逆に、まだ通常どおり返済ができている、税金や社会保険料も支払えている、手元資金も残っている。その段階なら、経営改善によって時間を作れる可能性があります。
私は、ここが今後ますます重要になると思っています。
事業承継か、M&Aか、廃業か。その三択になる前に、経営改善という選択肢があります。
会社の利益構造を変える。資金繰りを立て直す。返済負担を適正化する。そして数年後に、自社で続けるのか、従業員へ承継するのか、第三者へ引き継ぐのかを改めて考える。
時間を作ることができれば、それだけ経営者には選べる道が増えます。
経営改善と事業承継は、本来つながっている
事業承継というと、後継者探しや株式の移転、M&Aの相手探しに目が向きがちです。
しかし、本当に良い承継をしようと思えば、その前に会社を整えておく必要があります。
利益が出ていない。資金繰りが分からない。借入金が多すぎる。不採算事業が放置されている。この状態で承継しようとしても、引き継ぐ側の負担が大きくなります。
反対に、数年前から経営改善を進め、利益、資金繰り、借入金、取引先、事業ごとの採算を整理しておけば、親族内承継でも従業員承継でもM&Aでも、選択肢を考えやすくなります。
つまり、経営改善は会社を残すためだけのものではなく、良い形で次へつなぐための準備でもあるということです。
これからは「何を残すか」を考える時代かもしれない
これからの中小企業政策を考えると、「どの会社を残すか」だけではなく、「何を残すか」という視点がますます重要になるのではないでしょうか。
会社そのものを残せるなら残す。難しい場合でも、事業、技術、雇用、顧客、地域の役割を次へつなぐ。
そして、まだ立て直せる会社については、安易に出口へ向かわせるのではなく、経営改善によってもう一度自力で走れる状態をつくる。
私は、支援する側にも、この二つを見極める力が必要だと思っています。
制度があるからM&Aを勧める。補助金があるから設備投資を勧める。それでは順番が逆です。
先に考えるべきなのは、この会社にとって何を残すことが一番いいのかではないでしょうか。だからPlow株式会社では補助金ありきの話をしたことは一切ありません。
経営者である社長が気になるところは以下ではないでしょうか。
個人事業主や小規模企業は、これから支援されにくくなるのでしょうか?
一律にそうとは言えません。2026年版小規模企業白書でも「事業の維持・拡大」がテーマとされ、小規模事業者持続化補助金などの施策も続いています。ただし、現状維持だけでなく、生産性向上や経営力強化を求める方向は強まっていると感じます。
後継者がいなければ、M&Aを考えるべきですか?
M&Aは有力な選択肢の一つですが、それだけではありません。親族内承継、従業員承継、第三者承継、事業の一部譲渡などもあります。会社の収益力や資金繰りを整えたうえで、どの形が最も事業を残せるかを考えることが大切です。
経営が悪くなってから事業承継を考えても間に合いますか?
可能な場合もありますが、早いほど選択肢は多くなります。また選択肢がなくなった時に相談を受けても何もできないことは現実あります。あと1年早かったらというケースはあります。資金繰りや返済に余裕があるうちに会社の状態を整理しておけば、経営改善を続けるのか、承継を進めるのかを落ち着いて判断でき、様々な対策が可能です。
経営改善と事業承継は別々に考えるものですか?
別々ではありません。収益力、資金繰り、借入金、不採算事業などを整理して会社を良い状態にすることは、後継者や譲受企業が引き継ぎやすい会社をつくることにもつながります。
大阪の認定支援機関 Plow株式会社
Plow株式会社は、大阪の中小企業・小規模事業者を対象に経営改善を支援する認定経営革新等支援機関(認定支援機関ID:107827001712)です。
会社の健康診断、資金繰り表、早期経営改善計画、融資・借換えの検討、返済負担の見直し、金融機関への説明、事業承継を見据えた経営改善まで、会社の状況に応じて支援しています。
参考:2026年版 中小企業白書(中小企業庁)/2026年版 小規模企業白書(中小企業庁)/事業承継・M&A補助金(中小企業庁)